急にふえた「謎のブーム」
お店でよく聞かれます。 「このイス、ひじ掛けが短くないですか?」
そうです。 これを「セミアーム」と呼びます。 ふつうの半分くらいの長さ。
私たち家具屋からすると、この20年まえからの変化です。 でも、家具を買いかえるのは数年にいちど。 お客様にとっては、ある日とつぜん現れた「謎のブーム」に見えるかもしれません。
「日本でうまれた、新しい発明?」 そう思うかもしれませんが、実はちがいます。 ルーツをたどると、あの「家具の聖地」につくのです。
ルーツは「70年前の北欧」に
時計の針を、1950年代にもどしましょう。 場所はデンマーク。
巨匠、ハンス・J・ウェグナー。 そして、カイ・クリスチャンセン。 家具好きならピンとくる彼らが、すでにこの形を作っていました。
たとえば、ウェグナーの「カウホーンチェア」。 その名の通り、牛のツノのような短いひじ掛けがついた傑作です。 今も人気の「CH88」なんかもそうですね。
そして極めつけは、カイ・クリスチャンセンの「No.42」。 可動する背もたれに、ちょこんとした美しいひじ掛け。 今のセミアームの「完成形」とも言える名作です。

そう、デザイン自体は昔からあったのです。 でも、欧米ではあくまで「数あるデザインのひとつ」。 主流にはなりませんでした。
なぜなら、欧米の家は広いから。 ドカッと座れる「大きなひじ掛け」か、サッと動ける「ひじ無し」。 その2つがあれば十分だったのです。
日本の「せまい家」にピタリとはまった
しかし、日本では事情がちがいました。 日本の家はコンパクトです。
「くつろぎたいけど、場所はとりたくない」 「出入りはラクなほうがいい」

そんな私たちの暮らしに、北欧でうまれたこの形が、驚くほど相性がよかったのです。 埋もれていたデザインが、遠くはなれた日本で「再発見」された瞬間でした。
日本のイスを変えた「4つの名作」
この流れをつくり、定着させた名作たちがいます。
1.伝説の復刻「No.42(ナンバー42)」 まずは、このイスから始めなければなりません。 2008年、半世紀まえのカイ・クリスチャンセンのデザインを日本の宮崎椅子製作所で復刻。これは世界的にも話題になりました。

すると、この「ちょこんとしたひじ掛け」がインテリア好きからじわじわ広がってきました。 セミアームという形が日本に広まる、起点の1つとなったイスです。
2.軽さの革命「White Wood(ホワイトウッド)」 おなじく2008年ごろ、飛騨高山の日進木工(nissin)が傑作を生みました。 このイスのすごいところは、軽さ。 なんと3.4kgしかありません。指一本で持てます。 しかも、ひじの先端をテーブルに「引っかけられる」ので、掃除機をかけるのが本当にラク。 北欧デザインを受け継いだ「実用性のセミアーム」として、今も売れつづけるロングセラーです。
3.愛らしい形の「UU(ユーユー)チェア」 2009年、宮崎椅子製作所。デザイナーは小泉誠さんです。 背もたれが「U」の字に重なっているから、UUチェア。 見た目がかわいいだけじゃありません。 ひじの高さが絶妙で、ここちよく体をささえてくれます。 No.42とならぶ、大人気のイスです。

4.スタイリッシュな「SEOTO(セオト)」 そして2011年、飛騨産業。川上元美さんの名作です。 あえてひじを短くすることで、「圧倒的な出入りのしやすさ」を実現しました。 シュッとした美しいデザインは、今のセミアームブームを決定づけた「完成形」とも言えます。

これらが多くの人に愛されたことで、セミアームは日本のダイニングの「定番」になっていったのです。
「床をきれいに」という執念
もうひとつ、日本だけで流行った大きな理由があります。 それは「掃除」です。
私たちは靴をぬぎます。 床に寝転ぶこともあります。 だから、床のホコリには敏感です。
そこで開発されたのが、セミアームをテーブルに「引っかけられる」機能。 イスの脚をうかせれば、掃除機もスイスイ。 お掃除ロボットも通り放題です。

「床をきれいに保ちたい」 この執念が、セミアームを最強の道具に育てました。
最後に
北欧でうまれた、美しいデザインのDNA。 それが海をわたり、日本の暮らしにあわせて進化した。
狭い日本だからこそ生まれた、知恵の結晶。 そう思うと、このちょっぴり短いひじ掛けが、なんだか愛おしく見えてきませんか?
北欧生まれ、日本育ち。 この「中途半端」な長さこそが、私たちの暮らしの正解なのかもしれませんね。
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